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お酢とタルタルソースが好きです

気は確かか?

なんやかんや就職して半年以上が経った。


これだけの月日があると、毎日毎日面白い話や不思議な話で満たされているが、そのほとんどが記憶のインプットから外れてしまうのがアスペの悲しい性である。


そんな中でも、ここ数年先は忘れないであろう衝撃的な事件が起きた。



日々の中で訪れる見送り降園の時間。

保護者が迎えに来て雑談して、園児にバイバイするアレ。

話し下手な僕は、毎日その日の出来事を振り絞って保護者と会話をするのだが、ある保護者からこんな質問をされた。



羽生結弦くんに似てるって言われたことありませんか?」


その瞬間僕の脳はパニックを起こした。

あの氷上の貴公子を、お母さんはどう僕に重ね合わせているのか。

何故重ね合わせられるのか。


そのお母さんもお喋りなタイプでは無いため、何かしら勇気を振り絞って聞いてくれたことは、雰囲気や様子を見て即座に察することが出来た。

そんな振り絞った勇気に対して、何か応えなければと、一生懸命に振り絞って口から出た答えが


「いろんな人からぶっ叩かれますよ(笑)」


その瞬間やってしまったという罪悪感に心は満たされた。

我が子を預けられている保育者として、人として、超えてはいけないラインの答えを出してしまった。

その罪悪感から、この出来事は僕の心の枷としてしばらく記憶に残った。



そこからしばらくして、昼食を職員室で頂いている時、普段あまり話さないリーダー格の先生が僕を見つめながらこう言った。


羽生結弦くんに似てるよね」



またか。


prince of Iceの名に対して落胆しているような表現は非常にいたたまれないが、いざ自分が釣り合わない人間と似ていると二度も言われると、喜びすら感じなくなる。


喜びは確かに無い。

たが、二度も羽生結弦似と言われたその時、疑いは疑心暗鬼に変わる。

自分は本当に似ているのでは無いだろうか

否定している自分の心が間違っているのではないだろうか。

思えば大学時代は「口元が二宮くんに似てるね」と言われた事もある。

可能性は0では無いのかもしれない。


自分の気持ちに嘘はつけなくなる。

そして、その疑心暗鬼を確実なものにしたいという人間の業は愚かにも溢れてくる。

この気持ちを自分の中で確かなものにしたい。



先日、旧友と久しぶりに呑みに行った際に、思いを確かなものにすべく彼に問いた


羽生結弦に似ているって言われたんやけど、どの辺が似てる?」


彼は表情筋を一切動かす事なくこう行った。



「呑み過ぎてる?気は確かか?」